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出生前・着床前の診断はどこまで許されるか
はじめに
 飯塚理八先生を会長とする「妊娠・出産をめぐる自己決定権を支える会(FROM)」の第2回総会が、平成14年2月3日に開催された。ここで、「代理母を望む夫婦」と、「着床前診断を希望する夫婦」の2つの深刻な報告がされた。筆者は、従来、「非配偶者間体外受精と代理母の規制」に反対する立場から意見を公表してきた。しかし、日本産科婦人科学会の規制は、体外受精自体の規制に始まり、これに関連する出生前診断全般に及ぶものである。そこで、日本産科婦人科学会の規制がどのようなものであるか、規制の理由は何か、そして、不合理なものであるか否かを明らかにする。結論としては、医師、患者の自由は不当に抑圧されているのであり、患者(又は医師)が自らの権利として請求しうる道はどのようなものがあるかを探る。

1 出生前診断とは何か
 出生前診断とは、ここでは広い意味で、胎児が出生するまでの間に行う診断又は検査を指すものとする。時間の経過からみると、体外受精の準備段階から出生までの間に、XY精子選別法(男女産み分けを目的とする)から、着床前診断、更に妊娠中の検査の実施へと続く。しかし、歴史的に技術の発展してきた経過を踏まえると、以下の通り整理することが分かりやすいと言える。

(1) 着床後診断(胎児診断) 
 これは、着床後、すなわち妊娠中に行われる胎児診断であり、体外受精ばかりか普通妊娠の場合にも行われるものである。歴史的には、着床前診断より早く発展したものである。一般には、出生前診断と呼ばれているが、着床前診断と対比するならば、着床後診断という方が分かりやすい。
[1] 絨毛診断
[2] 羊水診断
[3] 臍帯血診断
[4] 組織診断
[5] 母体血診断
[6] 胎児鏡診断
[7] 胎児採血
[8] 超音波診断
これについては、日本産科婦人科学会は昭和63年1月の会告「先天異常の胎児診断、特に妊娠初期絨毛検査に関する見解」を公表している。重要な要点は次のとおりである。
[1] 伴性(X連鎖)劣性遺伝性疾患のために検査が行われる場合を除き、胎児の性別を両親に告知してはならない。
[2] 妊娠初期絨毛検査法については、以下の点に留意して実施する。
妊娠初期絨毛検査法は、下記のような夫婦からの希望があり、検査の意義について充分な理解が得られた場合に行う。
夫婦のいずれかが染色体異常の保因者
b
染色体異常児を分娩した既往を有するもの
c
高齢妊娠
d
重篤な伴性(X連鎖)劣性遺伝性疾患の保因者
e
重篤で胎児診断が可能な先天性代謝異常症の保因者
f
重篤でDNA診断が可能な遺伝性疾患の保因者
g
その他重篤な胎児異常の恐れがある場合
 そして、施設登録の制度もないので、一般的に広く行われることを前提としている。それ故、単なる訓辞的規定に留まり、会告の中では最も緩やかなものとなっている。結局、この着床後診断は一般的には許容されているという認識が広まっている。
 次に、着床後診断が実施され、胎児診断により障害や異常の発見された場合には、中絶が許されるかが問題となる。母体保護法では、障害や異常の発生に基づく中絶は許されていない。母体の危険性または経済的理由のみ許容される。着床後診断に基づく中絶についての現在の実態は、経済的理由を以て実施をしているのが実情である。そのため、医師としては、中絶は違法であるかもしれないとのストレスを抱えたまま行われることとなる。また、検査前のインフォームド・コンセントもかなり難しい面がある。すなわち、検査をした場合に、障害や異常があった場合には原則として中絶をするという目的で検査をするのか、中絶をしないならばそのような検査をする必要はないと説明をするのか、などの問題がある。このように、胎児診断に関するインフォームド・コンセントは極めて重要なものとなるが、いずれにしろ、実態としては、検査も中絶もかなり自由にされている状況である。
(2) 着床前診断
 体外受精の進歩と共に、着床前の「極体診断」、あるいは「初期胚診断」が進展した。遺伝子診断である。日本産科婦人科学会は、平成10年10月「着床前診断に関する見解」を公表し、着床前診断の実施に関する細則も定めた(注)。これによると、着床前診断の実施を希望する施設は、施設を登録しなければならない。着床前診断を行う疾患名も明らかにし、疾患ごとに審査をされ、実施状況とその結果について毎年定期的に報告する義務を負う。これは、他の施設登録に比べ最も厳しいものである。そして、現在まで、審査により却下された例はあるが、許可された例はない。
(注)[会告の一部]
[1] 本法は重篤な遺伝性疾患に限り適用される。適応となる疾患は日本産科婦人科学会(以下、本会)において申請された疾患ごとに審査される。なお、重篤な遺伝性疾患を診断する以外の目的に本法を使用してはならない。
[2] 本法の実施にあたっては、所定の様式に従って本会に申請し、認可を得なければならない。また、実施状況とその結果についての毎年定期的に報告する義務を負う。なお、申請にあたっては、会員が所属する医療機関の倫理委員会にて許可されていることを前提とする。
(3) XY精子選別法
 XY精子選別におけるパーコール使用は、重篤な伴性劣性遺伝性疾患の回避に役に立つ。伴性劣性遺伝性疾患を起こす遺伝子は、主にX染色体上にあり、男児の半分に発症するので、このような疾患を発病しない女児を選択することができる。この方法は、男女産み分けを通じて遺伝性疾患を回避することができる。日本産科婦人科学会は昭和61年11月「パーコールを用いてのXY精子選別法の臨床応用に関する見解」を公表し、パーコールを用いたXY精子選別法は、「重篤な伴性劣性遺伝性疾患」を有する児を妊娠することを回避するためにのみ行われるべきであるとした。しかるに、その後平成6年8月「XY精子選別におけるパーコール使用の安全性に対する見解」を発表してパーコールの使用を禁止した(注)。これについては、施設登録などの方法もなく、男女産み分けに関しては全面禁止とされている。
(注)[会告]「XY精子選別におけるパーコール使用は重篤な判性劣性遺伝性疾患の回避に限って施行されてきたが(会告38巻11号:パーコールを用いてのXY精子選別法の臨床応用に対する見解)、未だにその安全性は確立されていない。従ってXY精子選別法には、当分の間パーコールを使用しない。」

2 患者は何を為しうるか
 上記のとおり、着床後診断(胎児診断)は、極めて自由に行われ、かつ中絶もなされている。このこと自体において問題性があるとしても、自己決定権の問題として処理することが可能であり、充分なインフォームド・コンセントと患者の自己決定権を保証することにおいて、今後も厳しい規制をする必要はない。
 これに比較すれば、着床前診断はさらに自由に行われてしかるべきである。なぜならば着床前診断の場合には、受精卵に障害や異常があっても着床前であるために、その着床を回避するだけでよいわけで、中絶などの問題は起こらないからである。このような方法により、はるかに中絶を減少させ、患者の希望に合った妊娠が可能となる。
上記のとおり、着床前診断を患者が全くといっていいほど利用できないことは、患者の権利の侵害であり、幸福追求権を侵害する憲法違反ともいえるものといえる。日本産科婦人科学会は、着床後より着床前の方がはるかに男女産み分けが容易であるため、厳しく規制しているものと考えられる。しかし、重篤な疾患を回避するための検査や手段はどの段階でも許されるべきであり、男女産み分け自体も3人目〜5人目になれば許されるとの意見も強いので、より検討を進めるべきである。それ故、患者としては、後記の通り様々な選択を取ることが可能となる。
 日本産科婦人科学会は、日本産科婦人科学会雑誌において「学会は会員が日常診療を行うにあたり、これらの会告を厳重に遵守されることを要望致します。会告を遵守しない会員に対しては、速やかにかつ慎重に状況を調査し、その内容により定款に従って適切な対処を行います。」と最近に至り記載することとなった。日本産科婦人科学会の会告は、日本産科婦人科学会雑誌に掲載されてきたが、現在まで東大医学部、慶応大医学部、慈恵大医学部をはじめ、図書館においては、この会告が全面的にカットされてきた。図書館側では、全く重要性がない単なるお知らせくらいと判断したのであろうか。それ故、図書館においては、学生や第三者など産科婦人科学会会員以外の者は見られない状態が続いてきた。このような経過から分かるように、上記「定款に従って適切な対処を行います」とは、必ずしも厳しい制裁を意味するわけではない。なぜなら、学会もマスコミや諸団体の圧力にやむを得ず屈してきた面があるからである。
 さらに、「体外受精・胚移植に関する見解」、「顕微受精法の臨床実施に関する見解」、「非配偶者間人工授精と精子提供に関する見解」、「ヒト精子・卵子・受精卵を取り扱う研究に関する見解」においては、施設の登録を義務付けているだけであり、一定のレベルにある施設であれば許容されるという意味で、内容的な規制ではない。
 これに対して施設登録以外の規制に対しては下記のとおりの選択がありえる。(1) 患者と医師が会告についての重要な例外として実行する方法
 学会の会告はガイドラインとして遵重するとしても、施術について例外的に必要性の高い場合には、結果的に形式上違反することとなっても、実質上許容されることがある。法律的用語で言えば、実質的違法性がない、緊急避難、社会的相当行為、情状酌量ということである。
パーコールのXY精子選別法は、男女産み分けに関しては全面禁止であり、日本産科婦人科学会に対する審査請求の制度自体が存在しない。これに対して、着床前診断については、疾患ごとに許可をもらう制度となっている。しかし、許可された事例もなく、今後も許可される見通しはほとんどない。そこで、診断や施術について重要性が高いときには、例外として会告に従わないという方法がありうる。この場合には、出来る限り公表しない方が学会のためにもよい。万一、その施術が判明した場合には、医師は日本産科婦人科学会に呼び出されるが、今後致しませんという態度を取ると、除名などの制裁がない。
 すなわち、前記の通り、「定款に従って適切な対処を行います」とは、必ずしも除名を意味していない。なぜならば、これらの会告は総会又は評議委員会で報告事項として了承されてきたが、決議事項として審議されたこともなく、かつ決議されていないものであるので、除名の対象になりえないからである。実例としては、田中温医師が父親の精子を使って人工受精をしたことを著書に書いたために日本産科婦人科学会より呼び出されたので、謝罪の趣旨を入れたところ、それ以上の処分は何らされていない。これについて、父親の精子による人工受精ではなくて、「体外受精」であった可能性が極めて強いが、日本産科婦人科学会は通常は何らの調査や追求をしないので、申告者の言うとおりになる。著書や論文で発表しない限り、学会が積極的に調査することもない。
 このような状況の中で、全国において、密かに会告に従わない事例が多数存在するものと推定されている。しかし、患者は、自分の施術が全て終了してしまったならば、このような状況を明るみに出した方がよい。その場合、患者自体は医師の名前を特定しないで、そのような施術を受けたとできる限り公表することが、事態を改善する方法といえる。患者自身が自分の利益を守るだけではなく、社会の改革を望むのであれば、そのような対応が是非望まれる。日本産科婦人科学会に対して、社会的必要性を示さない限り、学会は会告を変えることができないからである。
(1) 患者と医師が会告についての重要な例外として実行する方法
 学会の会告はガイドラインとして遵重するとしても、施術について例外的に必要性の高い場合には、結果的に形式上違反することとなっても、実質上許容されることがある。法律的用語で言えば、実質的違法性がない、緊急避難、社会的相当行為、情状酌量ということである。
パーコールのXY精子選別法は、男女産み分けに関しては全面禁止であり、日本産科婦人科学会に対する審査請求の制度自体が存在しない。これに対して、着床前診断については、疾患ごとに許可をもらう制度となっている。しかし、許可された事例もなく、今後も許可される見通しはほとんどない。そこで、診断や施術について重要性が高いときには、例外として会告に従わないという方法がありうる。この場合には、出来る限り公表しない方が学会のためにもよい。万一、その施術が判明した場合には、医師は日本産科婦人科学会に呼び出されるが、今後致しませんという態度を取ると、除名などの制裁がない。
 すなわち、前記の通り、「定款に従って適切な対処を行います」とは、必ずしも除名を意味していない。なぜならば、これらの会告は総会又は評議委員会で報告事項として了承されてきたが、決議事項として審議されたこともなく、かつ決議されていないものであるので、除名の対象になりえないからである。実例としては、田中温医師が父親の精子を使って人工受精をしたことを著書に書いたために日本産科婦人科学会より呼び出されたので、謝罪の趣旨を入れたところ、それ以上の処分は何らされていない。これについて、父親の精子による人工受精ではなくて、「体外受精」であった可能性が極めて強いが、日本産科婦人科学会は通常は何らの調査や追求をしないので、申告者の言うとおりになる。著書や論文で発表しない限り、学会が積極的に調査することもない。
 このような状況の中で、全国において、密かに会告に従わない事例が多数存在するものと推定されている。しかし、患者は、自分の施術が全て終了してしまったならば、このような状況を明るみに出した方がよい。その場合、患者自体は医師の名前を特定しないで、そのような施術を受けたとできる限り公表することが、事態を改善する方法といえる。患者自身が自分の利益を守るだけではなく、社会の改革を望むのであれば、そのような対応が是非望まれる。日本産科婦人科学会に対して、社会的必要性を示さない限り、学会は会告を変えることができないからである。
(2) 日本産科婦人科学会への許可申請
 XY精子選別法あるいは着床前診断に関して、問題となっている疾患を明らかにし、診断の必要性を付して学会へ許可申請をする方法である。XY精子選別法においては、許可申請手続きが制度上は認められていないが、会告自体を改正する手段がない以上、個別に許可申請することは意義がある。これにより、却下されそうな場合には、却下の前に充分学会に申し入れをしたり協議をし、またマスコミなどに公表することである。そして、仮に却下された場合には、これの不合理性につき公表し、さらには訴訟を提起することである。訴訟においては、患者(及び医師)は学会に対し、却下処置の撤回請求及び損害賠償請求を行うことが可能である。

3 日本産科婦人科学会の再生へ向けて
 平成14年6月7日付の朝日新聞は、「不妊治療は診高学低である」と報じた。不妊治療は、医学部付属病院では発展せず、小回りの利く民間診療所で発展してきたという。しかし、学会のわずかの幹部は、すべて大学教授で独占されている。会長についても、わずかのメンバーで構成する理事会で選出されている。
 不妊治療を得意としないわずかの大学教授が、議論をする知識や経験もないままに会告を作り、多くを禁止し、大病院では会告を遵守するため益々進歩に遅れる。民間診療所は会告を密かに無視し、次々と新しい治療を進め、患者はさらにこちらに集まる。
 上記記事は、「学会の元幹部が開く診療所で、学会が禁じる男女産み分け技術を使ってもらったと患者に聞いた。」とまで書いている。クローン技術を始め、さらに新しい技術の登場を目の前にして、「診高学低」を放置することは好ましくない。学会においては自由な討議を許し、開業医も幹部に登用すべきである。学会が医学の発展と患者の治療に役立つ理想的な組織に再生されることを祈念してやまない。
以 上