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「着床前診断」に関するQ and A
「着床前診断」に関するQ and A

着床前診断とは何ですか。
A 体外受精において、受精卵を着床させる前に、すなわち妊娠が成立する前に、検査する方法(受精卵診断)です。胎児の超音波検査などの出生前診断は着床後診断というべきものです。

着床前診断は世界ではどれほど実施されていますか。。
A 人口から見れば、世界の95%以上において実施されています。すなわち、米国、オーストラリア、英国、フランス、ベルギー、北欧、ロシア、ギリシャ、トルコ、インド、アルゼンチン、中国、韓国など、ほとんどの国で実施されています。1990年から1000例以上の成功といわれています。

着床前診断を禁止している国はありますか。その理由は何ですか。
A ナチス関係国(ドイツとその隣国のオーストリア、スイス)では、ナチスの後遺症があり、主として政治的理由で、またイタリアではカトリックとしての宗教上の理由で、現在のところ制限されています。

ドイツでは、着床前診断を認めるべきとの意見はありますか。
A 医師会を始め、有識者からは認めるべきとの多くの強い意見が出ています。
(着床前診断推進派は下記の様な点を指摘しています。
着床前診断が障害を持つ人々の社会における立場を侵害するのではないか、という懸念は、一見、説得力がある。しかし、経験論的には証明不能である。障害を持つ人々が、着床前診断が実施されている国々では他の国よりも差別に苦しまねばならないことを示す証拠は存在しない。ドイツでは約10年来、出生前診断が実践されてきたが、このような影響は認められないことにも注目すべきである。障害児がいる家庭や一般的な障害者の状況の改善にさらに努力することは、政治家の課題である。)

日本では、法令で禁止されていますか。なぜ実施できないのですか。
A 法令では全く禁止されていません。日本産科婦人科学会が、平成10年会告で「重篤な遺伝性疾患」に限り、疾患毎に認可するという制度を作り、事実上全面禁止にしてきたからです。合理的理由はありません。

日本産科婦人科学会が認可申請を却下した例はありますか。
A 鹿児島大学の「デュシェンヌ型筋ジストロフィー(DMD)の申請」、セントマザー産婦人科の「習慣性流産防止の申請」を却下しました。

日本では世界的にみて、どれほど遅れているのですか。
A 15年以上遅れています。

着床前診断を禁止する理屈はありますか。
A 憲法13条は「すべて国民は、個人として尊重される。生命、自由及び幸福追求に対する国民の権利については、公共の福祉に反しない限り、立法その他の国政の上で、最大の尊重を必要とする。」と規定しておりますが、着床前診断が公共の福祉に反するとは考えられません。女性が着床前診断を含めてご自分の妊娠、出産について自己決定権を持つこと、ひいては女性が幸福を追求することは当然の権利です。

なぜ日本産科婦人科学会の会告を憲法違反と考えるのですか。
A 任意団体であり、国民の請託を受けたわけでもない日本産科婦人科学会の定めた「会告」が法令のように機能し、日本の産婦人科医の殆どが着床前診断を患者に提供できないという状況になっています。憲法13条によって患者に保証されている「幸福を追求する権利」、「治療を受ける権利」「自己決定権」を侵害していると言えます。この状況は憲法の理念である自由と民主主義にも反します。

日本産科婦人科学会はどうあるべきでしょうか。
A 日本産科婦人科学会が柔軟なガイドラインを作ることは否定しませんが、着床前診断の会告は、世界に遅れたもので患者の権利を侵害するものです。学会は社会をリードする役割を果たすべきです。

着床前診断は生命倫理上問題がありますか。
A 着床前診断は下記のどの原則にも抵触していません。
米国で、あるいは日本でも生命医学倫理を語るときにこれを抜きに語ることができないとされるものに「ビーチャムとチルドレスの生命医学倫理の4原則」があります。
(1) Respect for Autonomy(自立尊重):正常な判断力を持つ能力を有する人の自己決定権を尊重する義務。
(2) The Principle of Nonmaleficence(無危害):他人に危害を加えないこと。
(3) The Principle of Beneficence(仁恵):その人のために積極的に奉仕して、リスクと費用に対してその人の利益が最大になるように働く事。
(4) The Principle of Justice (正義):ここで言う正義とは医療の恩恵やコストが人々の間で公正(フェアー)に配分されるべきという概念。

着床前診断は安全でしょうか。
A 着床前診断により1990年に最初に健康な赤ちゃんが誕生したことが報告されています。以降、現在まで1,000人以上の健康な赤ちゃんが誕生したとされていますが、着床前診断が原因で児に異常が生じたとの報告はありません。

受精卵はいくつ作るのですか。
A 診断しようとする疾患、女性の卵巣の状態によって変わってきますが、一般的には10個前後の受精卵を作ることを目標にします。

割球を1個採取しても安全ですか。
A 8細胞くらいになった受精卵から割球を1〜2個採取することの安全性については、マウスなどの動物実験が先行して実施されております。また、日本産科婦人科学会が昭和63年の会告で認めている、受精卵の凍結、解凍において、割球が1〜2個損傷することは普通にあることですが、これについては会告は何の言及もしておりません。

受精卵はいくつ戻すのですか
A 1〜3個です。

どうして不妊治療の妊娠率の向上が図れるのですか。
A 女性の年齢にもよりますが、受精卵は59〜74%もの割合で何らかの染色体異常を有しており、これらの多くは着床できないか、流産してしまいます。こういった染色体異常をもつ受精卵を回避して、着床できて、妊娠も維持できる受精卵を選んで子宮に戻せば、体外受精などの不妊治療の妊娠率の結果の改善が図れます。染色体スクリーニング(PGS)とも言われています。

不妊治療に際しての着床前診断のメリットには具体的にはどのようなものがありますか。
A ・体外受精の妊娠率を約2倍に上昇させることができる。
・体外受精後の流産率を約40%減らすことができる。
・一定の条件下で体外受精反復不成功例の妊娠を期待できる。
・体外受精後の多胎妊娠率を減らすことができる。
・習慣性流産を予防することができる。

習慣性流産とはどのようなものですか。
A 日本でも外国でも、3回以上流産した場合を指します。しかし、1〜2回以上流産した場合には染色体検査をうけた方がよいとの考え方もあります。


習慣性流産の原因は何ですか。
A 色々あります。ホルモン治療や免疫療法などにより妊娠することも可能です。しかし、その内、約3〜5%については、父親か母親の染色体異常を原因とします。たとえば、相互転座という染色体の一部が入れ違ったものでは、受精卵の染色体の組合せの約80%は確実に流産することになります。着床前診断によれば、正常型、均衡型を選択し、流産を防止できます。


習慣性流産とはどのようなものですか。
A 日本でも外国でも、3回以上流産した場合を指します。しかし、1〜2回以上流産した場合には染色体検査をうけた方がよいとの考え方もあります。


習慣性流産の申請はなぜ却下されたのですか。
A 「重篤」ではないとの理由です。全く患者の状況を理解していないといえます。


習慣性流産とはどのようなものですか。
A 日本でも外国でも、3回以上流産した場合を指します。しかし、1〜2回以上流産した場合には染色体検査をうけた方がよいとの考え方もあります。


トリソミーの診断とは何ですか。
A 染色体の異常の1種です。染色体21番の場合には、ダウン症となるので、これを検査できます。なお、受精卵が染色体21番のトリソミーの染色体を持っていた場合、大多数は流産してしまい、ダウン症児として生まれるのはごく一部です。


夫あるいは妻の染色体検査は高額ともいわれていますが、いくらくらいでしょうか。
A 健康保険は適用されませんが、1人あたり1回2〜3万円で、原則として原因が判明します。


遺伝性疾患を回避することが出来ますか。
A 可能です。染色体診断により男女を選別する方法、遺伝子自体を検査する方法があります。


鹿児島大学の申請(デュシャンヌ型筋ジストロフィー)はなぜ却下されたのですか。
A 男女選別をする染色体検査を申請したのに対して、遺伝子の欠失が特定できるので、遺伝子検査をしなさいとされました。全く合理的な理由ではありません。


遺伝子は受精卵の中で全て同じなのではないのですか。
A 日本でも外国でも、3回以上流産した場合を指します。しかし、1〜2回以上流産した場合には染色体検査をうけた方がよいとの考え方もあります。


FISH法とPCR法はどこが違うのですか。

A FISH法は染色体(遺伝子の入れ物)を特殊な染料で染色して染色体の数や異常の有無を調べる検査、PCRは遺伝子を何百万倍にも増やして、遺伝子の配列を調べる検査です。


着床前診断を行う費用と負担は通常の体外授精の場合と同じですか。

A 1回分については、通常の体外授精より少し増加しますが、何回も駄目となる体外授精を繰り返す必要がなくなったり、出生前診断の必要性が減ったり、全体として費用と負担は、はるかに少なくなります。


出生前診断とはどのようなものですか。

A 広く実施されている超音波検査(20週前後)、羊水検査(16週前後、日本では1年に約10,000件が実施されている)や絨毛検査(9週前後、残念ながら羊水検査より流産率が高い)などです。これらにより胎児に関する情報が判った場合、結果によっては女性が自分自身を傷つける可能性のある妊娠中絶という選択をされている場合があるのが現状です。カウンセリングのシステムの整備された欧米でも出生前検査でダウン症と診断された妊婦の92%が妊娠中絶を選択しています。


着床前診断は、出生前診断に比べて負担は少ないですか。

A 着床前診断では着床する前の受精卵を調べますから、絨毛検査や羊水検査などに比べれば、妊娠中絶の可能性を考えなくても良いということなどを含めて考えると、女性の心身の負担はずっと軽くなります。着床前診断は羊水検査、絨毛検査と、より早い段階での検査を可能にして女性への負担を減らそうという医学界の努力の延長線上にある技術です。


出生前診断による中絶はどうしてできるのですか。

A 経済的理由を名目にしています。


どちらがより人道的ですか。
A 結果によっては妊娠中絶の可能性も考えられる妊娠中期で検査するよりは受精卵の段階で検査した方がより人道的です。


受精卵は人ですか、モノですか。
A 少なくとも人ではありません。ヒトに関するクローン技術等の規制に関する法律でヒト受精卵と胎児を明確に区別して定義していること、文部科学省がその指針で受精卵を破壊してES細胞を作成することを容認していること、総合科学技術会議 生命倫理専門調査会の中間報告がヒト受精胚を『人格を持つ「人」ではなく、単なる「モノ」でもない中間的存在と位置付けざるを得ない』としていること、日本産科婦人科学会がその会告で受精卵を研究に用いることを許容していることなどから考えても一般的な価値観だと思います。


刑法では『人』とは、いつからをいうのですか。
A 殺人罪の対象は、出生後の児ですから、出生により人となります。出生前の胎児は人ではなく、中絶は、堕胎罪となります。受精卵の破棄は全く犯罪になりません。


着床前診断は生命の選択にあたりませんか。
A あたりません。出生前診断の「中絶」について非難されたことです。


優生学的治療と批判されませんか。
A 中絶の可能性を伴う出生前診断に対して向けられた批判です。着床前診断を受ける患者の自由が保障され、診断結果に対する患者の自己決定権も保証されていれば、着床前診断は今まで言われてきた優性思想にはありません。


着床前診断は障害者差別を助長しませんか。
A しません。なお、ダウン症のお子様をお持ちの方でも出生前診断による中絶を障害者差別と考えておられる方は約半数です。


障害者の福祉充実と両立しますか。
A 障害を持つ方々の憲法13条、14条、25条で定められた諸権利を脅かすものでも無いと考えます。妊娠、出産に関する自己決定権とその権利を行使する手段としての着床前診断は、障害者に対する社会福祉政策の充実と両立すると考えます。


新たな障害者の発生を予防するために実施されていることは他にもありますか。
A 妊娠を考えておられる女性に厚生労働省が「葉酸の摂取」を勧告しているのは「2分脊椎などの神経幹閉鎖障害」を予防するためです。殆どの妊婦は妊娠初期に「風疹抗体の検査」を受けられますが、これは「先天性風疹症候群」を予防する目的です。「重症な新生児黄疸」の治療のために実施する、光線療法や交換輸血は「核黄疸による脳性麻痺」を予防するという目的があります。広い意味で言えば「妊娠中期以降の早産の治療」も「脳性麻痺」などの障害を予防することができます。さらに言えば、交通事故防止のための努力も、「脊髄損傷」などによる新たな障害の発生の予防が期待できます。