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遠藤直哉プロフィールフェアネス法律事務所について最近の訴訟活動・報告著書紹介


法律家が見た日米医学・医療交流の未来
遠藤直哉 NaoyaEndou
日米医学医療交流財団常務理事

フェアネス法律事務所代表弁護士
弁護士法学博士桐蔭横浜夫学教授
東京大学法学部卒ワシントン夫学ロースクール修士
第二東京弁護士会平成8年度副会長
妊娠出産の自已決定権を支える会(FROM)議長
財団法人日本医療機能評価機構総合評価部会部会員
著書1『危機にある生殖医療への提言』近代文芸社(2004年)
『取締役分割實任論』信山社(2002年)
『ロースクール教育論』信山社(2000年)

  鍋谷欣一会長などのご尽力により、日米医学医療 交流財団が立派に発展されてきましたことをお祝い申し上げると共に、今後の財団の輝かしい未来を祈念致します。特に最近、若い理事や評議員の方々がご参加くださるようになり、大きな広がりを期 待できます。しかし、今日、財団が今まで以上に広く各界からご支援いただくためにも、改めて財団のおかれた役割を強調しなければならないと思います。
  まず、日米の交流につきまして、法律家から見ますと、明治以来、欧米から法律を輸入してきた経過と、欧米から近代医学を取り入れた状況は極めて似ていると思います。日本においては古代から江戸時代まで仏教や儒教の支配が続いてきました。明治になりごく一部の方々が欧米の法律を取り入れても、決して下々までこれが浸透することはできませんでした。医学においても漢方などの長い伝統の中に外科手術を中心とする近代医学が明治以来スムーズに取り入れられたとは思われません。欧米の文化が東洋の島国に着実に根付いていくにはそれなりの時問と教育が必要だったのではないでしょうか。
  私は25年前にワシントン大学ロースクールに留学し、アスベスト被害の大量訴訟を調査研究しました。 マウントサイナイ病院のセリコフ博士が全世界の研究者を集め、臨床、疫学、病理どについて総合的調査の下に大量の被害の実態を証明し、全米各州で多くの訴訟が起こっていました。私が修士論文をセリコフ博士に差し上げたとき、慶磨義塾大学出身の医師、鈴木康之亮先生が私の前に現れ、全米の被害者の病理を担当する第一人者であることが分かり、まことに驚樗しました。先生は私に訴訟前のディスカバリー(証拠開示)を見せてくれましれ日本にはない制度で大きな刺激を受けました。先生は現在まで米国に残り、大きな貢献をされました。私は日本に帰り、社会科学系では初めて、米国のアスベスト被害を紹介し、日本の労働組合、医師、弁護士にアスベストの危険性について警鐘を鳴らしました。しかし、最近になってやっとアスベストの使用制限がされ、昨年には日本で世界アスベスト会議が開かれるまで本当に長い歳月がかかりました。また、ディスカバリーを参考にして、文書提出命令の拡大を主張しましたが、民事訴訟法改正まで10年もの時問がかかりました。
  財団の常務理事として留学帰りの医師を見ていますと、米国の医学を研究し吸収することに大変な努力をされていることが分かります。しかし、それ以上に日本に帰国してからこれを実用化することにも同様の困難をきたしているようです。日米医学の交流にはこの2つの大きな壁があるように見えます。どちらかといえば、米国の医学を日本においてスムーズに効率よく実用化することのほうが極めて難しい最も重要な課題のように思えます。
  厚生労働省を中心とする保険診療の壁、学会や医師会の状況、教授を中心とする医局のシステム--このような中で米国の最新医療を学んだ者の意見は簡単には通らないようです。私は現在、受精卵診断権利確認訴訟を担当していますが、神戸の大谷医師は外国の高度な技能を実施したが故に、学会から除名までされてしまいました。米国帰りの多くの医師が困難な道を歩んだり、さらに挫折をしたり、また米国に戻ってしまったというケースが多くあると聞きます。このような現実を見ている若い医師が米国で果たして生き生きと学ぶことができるでしょうか。日本に帰国したときのことを思うと暗い気持ちにならざるを得ないような状況で、果たして米国において困難な研究や厳しい訓練に耐えることができるでしょうか。
  法律家の場合も全く同じ状況といえます。学者として欧米に留学するものの、それを果たしてどれだけ日本で役立てることができるか、不安で一杯です。また、多くの華やかな渉外弁護士が米国において学んできましたが、その米国のダfナミックな法的思考を日本においてほとんど活かしていないと思われます。裁判官のうち、優秀な方が留学しておりますが、その成果が日本に帰ってきたときには全くと言っていいほど役に立っておりません。青色発光ダイオードの中村修二教授に言わせれば日本の司法は腐っているとまで批判されております。医療においても医療過誤の多発をめぐり、高名な医師からも医局制度に対する批判が公然と上がり始めました。今まさに状況は揺れ動いており、医学と医療の輝く未来が切り開かれつつあるように感じられます。若い医師の中には医学において欧米に学ぶべきものはもはやないという意見を持つ者もいます。他方、依然として欧米の医学が優れており、日本では白己の能力を発揮できないため、帰国をしないという方々もおられます。グローバルゼーションの中にあって、このような二極分化の思考方法は好ましいことではありません。医学においても法学においても、その技術、知識、思想が広く世界に開放され、融合され、多くの人々と共有する時代にならなければならないと思います。幸いにして、わが財団は厚生労働省、医局、医師会などにご支援をいただいているものの、中立な立場で公益の増進に尽くすかぎり、自由に活動できる貴重な団体と言えます。財団の今後の益々の発展を祈願しております。