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着床前診断と医療倫理・ガイドライン・ソフトロー
(医学の世界社)産婦人科の世界3月号
着床前診断と医療倫理・ガイドライン・ソフトロー
(資料:ムンネ博士の名古屋市立大論文批判)
法学博士・桐蔭横浜大学法学部教授  
弁護士 遠 藤 直 哉
(要旨)医師の医療行為に対する規制は、以下のとおりである。
  @ 医療倫理4原則
A ガイドライン(私的指針。制裁なし)
B ソフトロー(医師会規定など。法的拘束力はないが、制裁や実効性のあるもの)
C ハードロー(法令。法的拘束力があるもの)
 先進医療、生命倫理に関わる医療については、上記@からCまで段階的に検討されるべきである。着床前診断については、医療倫理4原則に基づき、ガイドラインの必要性を検討することから始めるべきであり、そのような検討なくしてソフトローやハードローの制定をすべきではない。社団法人日本産科婦人科学会の「着床前診断に関する平成10年会告」の制定と運用は、ソフトローの誤った扱いであることが明らかとなった。
 本稿は、本邦ではほとんど分析されていない規制の段階構造と手続条件に踏み込み、問題提起しつつ解決の方向を探るものである。

第1 平成10年会告の意味
1.医療倫理4原則とガイドライン
   医療倫理4原則とは、@「自律的な患者の意思決定を尊重せよ」という自律尊重原則、A「患者に危害を及ぼすのを避けよ」という無危害原則、B「患者に利益をもたらせ」という善行原則、C「利益と負担を公平に配分せよ」という正義原則である。大谷医師の着床前診断の実施は、この原則に1点も違反することはない。むしろ、医師や学会が着床前診断の実施を拒否する場合には、この原則に違反することになる。そこで、この原則に則り、先進技術の実施に伴う安全や倫理について、具体的指針、ガイドラインを作成することも有益となる。この際、専門家による徹底した調査研究とこれを基にした開放的な議論を経て、作成しなければならない。しかし、この場合でも、あくまで「標準化モデル」・「議論すべき対象」などとしての意義があり、さらに技術進歩により改変されることが予定される。
社団法人日本産科婦人科学会の第1号の会告は、「昭和58年体外受精の会告」である。これを作られた飯塚理八先生は、「これはガイドラインであり、これを基に除名などの制裁をするべきものではない、米国の倫理規定と同じように3年ごとに改定をするものである」と明言されていた。筆者も「危機にある生殖医療への提言−ジェンダーバラエティー・着床前診断・精子卵子提供・代理出産」(2003年近代文芸社)において、生殖医療については可変的ガイドラインによるべきであると主張してきた。医療の進歩、人々の意識の変化に柔軟に対応するためには、硬直的な伝統的な法令によることはふさわしくないからである。法社会学者ノネとセルズニックの応答的法を参考にしたものである。
2.ソフトロー
  (1)歴史的には、国家の法令は権力により人々を抑圧したり、または民主主義という形式の下に人々を支配してきたといわれている。しかし、このような方法では社会秩序が維持できなくなってきた。それ故、国家の法体系を補充するために、社会の多くの組織や団体の自治により、より民主主義のレベルを上げることが試みられている。
米国では伝統的な法令をハードローと呼び、医師会規定などをソフトローと呼ぶ状況となっている。平成17年12月に出版された「生命倫理と法」(樋口範雄・土屋裕子編)においては、米国医師会倫理規定をソフトローの典型と紹介しつつ、位田隆一教授、土屋裕子研究員、田中成明教授がソフトローの意義を説いている。米国では、多くの努力と議論の末に、医師会が中心として開放的議論の末に具体的規範を形成してきたのである。論者は日本では大谷医師の除名の後に着床前診断が実施されており、ソフトローが阻害されているのではないかとの疑問をあげる。しかし、日本の現状は、ソフトローの形成の前提条件が整っていないのであり、これを厳しく批判しなければならない。大谷医師除名無効地位確認訴訟では、除名無効が認められる可能性が強くなっており、日産婦会の会告の存在と運用が批判されつつある。
(2)日本におけるソフトローの発展のために以下のとおり論述する。まず、ハードローとの違いは以下のとおりである。
ソフトロー
ハードロー
1
法的拘束力のない学会ガイドライン、公的指針、宣言などである。しかし、私的指針とは異なり、実効性のあるものである。
法的拘束力のある法令、条例、法的指針である。
2
短期的に変化を予定する可変的なものである。迅速かつ柔軟な性質を有する。
長期的に維持すべき固定的なものである。
3
具体的規範として、法令の補完をするものと言える。生殖医療に関して基本法を作るならばその具体的内容はソフトローやガイドラインに任せることが妥当となる。
抽象的規範である。
基本法で充分である。
4
科学的開放的な手続保証を必要とし、特に患者との協議を重視すべきである。
法令に定まっている手続保証を経る。
5
弱い制裁(除名、戒告、公表など)の下に実効性を有する。
強い制裁(刑罰、行政処分など)があるため強い実効性を有する。
6
原動力は自立と自治である。

権力や強制力を背景としている。

(3)日産婦会は会告をガイドラインと位置付けて出発したにもかかわらず、除名という制裁付のソフトローに形だけ格上げしてしまった。仮にソフトローで規制をするならば、日産婦会は、このソフトローの形成を自らの責任と義務、自立と自治により発展させるべきであったがこれを懈怠し、単なる抑圧装置に堕落させた。すなわち、平成10年より毎年検証すべき調査と研究を怠った。大谷医師除名に際しても、後述の科学技術文明研究所の不充分な外国調査を資料とした。

(4)今回の会告改定に際しても、着床前診断を実施している大谷医師、さらに実施していると強く推定される根津八紘医師、加藤修医師、田中温医師などの医師の意見を聴取することもなく、また習慣流産の患者からの意見聴取もしていない。専門家集団でありながら、全く専門家としての自立的な研究を怠り、名古屋市立大論文の不充分なデータ収集の結論にのみ依拠して議論を進めている。そこで、名古屋市立大論文の欠陥については、Human Reproductionにおいてムンネ博士が批判しているので、資料として添付する。
倫理委員会は、構造異常(相互転座)を認める方向で検討しているにもかかわらず、数的異常のチェック、すなわち染色体スクリーニングについては、全く検討を進めようとしていない。倫理委員会において着床前診断や染色体異常について理解されている委員はわずかであり、専門家集団としての研究をしているとは到底考えられない。樋口教授らの上記出版は、米国の紹介としては大変価値あるものではあるが、その中には大谷医師が会告に違反したためにソフトローの形成が阻害されているかのごとき論調もみられる。しかし日産婦会の閉鎖性と研究不足など責任ある団体としての義務懈怠が問題であり、このような欠陥を指摘せず、また大谷医師除名無効地位確認訴訟の意義を論じていないので、問題提起としての探りさげが不足していると言える。根津医師と大谷医師の除名問題を通して、まさしく日産婦会が責任ある団体として更生できるか否かが日本のソフトローの形成に重要なのである。

(5)ハードローであれソフトローであれ、人類は長い間ロー(法)の運用に苦労してきた。末弘嚴太郎博士の有名な「嘘の効用」(1954年日本評論社、末弘著作集W「嘘の効用」)を改めて参考にしなければならない。「人間はだいたいにおいて保守的なものです。そうして同時に規制を愛するものです。ばかばかしいほど例外をきらうものです。例えば、ここに一つ『法』があるとする。ところが世の中がだんだん変わってきて、その『法』にあてはまらない新事実が生まれたとする。その際とらるべき最も合理的な手段は、その新事実のために一つの例外を設けることであらねばならぬ。それはきわめて明らかな理屈である。しかし人間は多くの場合その合理的な途をとろうとしない。なんとかしてその新事実を古い『法』の中に押しこもうと努力する。それがため事実をまげること−すなわち『嘘』をつくこと−すらあえて辞さないのである」。「ローマ時代には、奇形児を殺した母親を罰しないために殺されたものは人にあらずとして罪にならぬとした。フランスや徳川時代の役人は見て見ぬふりをすることにより処理した。犯罪を発見しても犯罪をしていないことにして、嘘を貫くことを美徳とした。明治以来、検察官の起訴便宜主義は、見て見ぬふりをするのと同じである。」「われわれは『尺度』と欲する。しかも同時に『伸縮する尺度』を要求する。実をいえば矛盾した要求です。しかも人間がかくのごときものである以上、『法』はその矛盾した要求を充たしうるものでなければなりません。『法』はおのおの具体的の場合について『規則的に伸縮する尺度』でなければなりません」「われわれの結局進むべき路は『公平』を要求しつつ、しかも『杓子定規』をきらう人間をして真に満足せしめるに足るべき『法』を創造することでなければなりません。」と述べている。
産婦人科医の人工中絶などはまさに自由に伸縮する尺度を使い処理されてきた。また、加藤医師や田中医師は、着床前診断をしていないと嘘をつきつつ患者を大いに救済している。しかし、法の運用において見て見ぬふりをすることは、現代法において特にアメリカの法治主義においては困難となり、そこからソフトローの発想が生まれてきたのである。ソフトローをいかに形成し、発展させるかはアメリカの民主主義の壮大な実験と言える。

 

第2 科学技術文明研究所の訂正発表
1 外国の状況
  (1)新聞で報道された誤った情報(科学技術文明研究所の2004年報告からの引用)

   
適応範囲
英国 重い遺伝病で実施
習慣流産にも条件付きで実施
フランス 治療法がない重い遺伝病で実施
習慣流産は不可
スウェーデン 早期の死につながり治療法がない重い遺伝病で実施
習慣流産は不可
ドイツ 事実上禁止・議論中
スイス 禁止
オーストリア  
オーストラリア
・ビクトリア州
遺伝病や障害で実施
習慣流産は条件付きで実施
米国 ほとんどの州は規制なし、一部州は禁止
韓国 筋ジストロフィー、そのほか大統領令で定める遺伝病

  (2)海外の真実の状況
大谷医師の調査によると、真実は以下のとおりである(科学技術文明研究所の2005年報告書では大谷医師の報告の後に修正されている)。
           
【○】一部でも認められているもの    【△】極体診断    【空欄】禁止又は不明           
  遺伝性疾患回避 構造異常 数的異常
PGS
HLA
(ヒト白血球抗原)
男女産み分け
アメリカ
イギリス
 オーストラリア 
   ヴィクトリア州・サウスオーストラリア州・キャンベラ   ニューサウスウェールズ州(シドニー)           
           
ウェスタンオーストラリア州          
フランス・ベルギー・オランダ
スウェーデン    
オーストリア・ドイツ・スイス    
イタリア          
スペイン 認可見込み
韓国    
東欧・ロシア・ギリシャ・イスラエル・トルコ・インド
タイ ・マレーシア・アルゼンチン・ヨルダン・中国          

2 2004年報告の訂正
    大谷医師は、平成16年4月10日に総会で除名決議を受けた。総会に配布された資料は次の@Aである。
@社団法人日本産科婦人科学会倫理委員会倫理審議会(倫理審議会答申書−諮問事項:着床前診断について−)平成16年4月6日付、委員長米本昌平(科学技術文明研究所所長)
A 平成16年4月8日付科学技術文明研究所作成「着床前診断:諸外国の現状」
  この@Aは、諸外国の状況について科学技術文明研究所の調査を元に記載されている。諸外国では厳しい制限がされているとし、習慣流産についての紹介はほとんどないものである。これに対して、大谷医師と筆者は、「はじまった着床前診断」(はる書房)の中でも上記調査報告を批判した。また、その出版記念を兼ねて、東京と大阪で着床前診断解説セミナーを行い、平成17年7月18日大阪セミナーにおいて大谷医師は、この科学技術文明研究所の報告の誤りを具体的に指摘した。すなわち、日本経済新聞、朝日新聞、読売新聞などで再三にわたり科学技術文明研究所の2004年報告の要旨がだされていたからである。しかしその後、科学技術文明研究所は、平成17年9月に訂正をし、諸外国において広く着床前診断が認められていることをホームページで公表した。すなわち、科学技術文明研究所は、大谷医師を除名するため資料として、日産婦会に有利な報告をしていたのである。これに対して、大谷医師と筆者は、すでに平成16年8月産婦人科の世界56巻8号に「日本産科婦人科学会倫理審議会答申書に対する反論」を公表し、諸外国の調査は誤っていることを指摘した。その後、大谷医師の着床前診断の実施が成功の内に進み、裁判も有利に展開している状況になって、大きく訂正を発表をしたのである。過ちを認めることは、間違ってはいない。然るに、日産婦会が専門家集団として、自主的な責任ある審議をしたのかが問われているのである。学会員の中には、欧米に留学している者も多いし、加藤医師や田中医師のように早くから着床前診断を実施している極めて先進的なパイオニアがいるにもかかわらず、このような偏向した資料を学会に配布し、またマスコミに交付していること自体が専門家集団としての義務を放棄したと言わなければならないことを強調したい。
3 現在の問題点
    科学技術文明研究所の2005年報告自体にもまだ不充分性が以下のとおり存在する。
(1)上記報告は、あくまで法令を中心とした規制を紹介しているのに過ぎず、その運用実態を正確に捉えているわけではない。古い法令が、実態と介離し、現実が進んでいる場合も多いはずである。
(2)上記報告には記載されていない国が極めて多い。ベルギー、オランダ、スペイン、その他の国々(北欧、東欧、ロシア、ギリシャ、イスラエル、トルコ、インド、タイ、アルゼンチン、ヨルダン、マレーシア、中国)などの紹介が全くされていない。
4 マスコミの怠慢
    マスコミは、科学技術文明研究所の報告を垂れ流し記事とした。自らの足で調査をすることは全くなかった。平成17年5月には、国際着床前診断会議がロンドンで行われ、取材することも容易であったにもかかわらず、それすら為されていない(筆者の研究したアスベスト被害に言及すれば、現在マスコミの記者から反省の弁が沢山寄せられている。ちなみに、日経新聞の平成16年の社説では、大谷医師の除名の年度まで間違えて記載して激しく非難するというお粗末な記事があったことを付け加えておく)。

第3 アンケート結果
1 日産婦会の医師集団としての最大の問題点は、患者の意見を聴取しないことにある。また、世論の動向が、重要であると主張しながら、アンケート調査など全くしないことである。筆者が行ったアンケート結果は以下のとおりである(以下のアンケートは桐蔭横浜大学大学院修士課程成田恭子氏と協同に行ったものである)。
  本アンケートは、平成17年5月から10月まで、下記のとおり4ヵ所で実施され、大谷産婦人科患者32名、諏訪マタニティークリニック患者34名、FROM(妊娠・出産をめぐる自己決定権を支える会)参加者33名、神奈川県内の大学付属病院看護婦174名から回答が得られた。

本アンケートは、今後数ヶ月にわたり各方面で実施し、その結果を厚生労働省、裁判所、報道機関に提出し、または学術論文、修士論文作成のために使用しますので、是非ご協力をお願いします。

桐蔭横浜大学教授  遠 藤 直 哉
桐蔭横浜大学大学院 成 田 恭 子

着床前診断(受精卵診断)についてのアンケート

該当するものに○を付けてください(複数回答も可)

 性別  男性 ・ 女性
 年齢  10代 ・ 20代 ・ 30代 ・ 40代 ・ 50代 ・ 60代 ・ 70代以上

1 染色体異常回避(習慣流産などの不妊治療)のための着床前診断について
 イ 習慣流産(3回以上の流産)には必要と思う
 ロ 妊娠・出産できない不妊患者は、インフォームド・コンセントの上、自己決定してよいと思う
 ハ 特に高齢出産のときには必要だと思う
 ニ 着床前診断は必要ないと思う
 ホ 分かりません

2 遺伝性疾患回避(筋ジストロフィーなどの回避)のための着床前診断
   イ 極端に重篤な疾患についてのみ必要だと思う
   ロ 手術を要する程の疾患についてはインフォームド・コンセントの上、自己決定してよいと思う
   ハ 疾患の程度にかかわらず、インフォームド・コンセントの上、自己決定してよいと思う
   ニ 必要ないと思う
   ホ 分かりません

3 男女産み分けのための着床前診断について
   イ 子供の同性が続いた場合3人目以上には、自己決定してよいと思う
      (同性の続いた場合は中絶のおそれがある)
   ロ 合計特殊出生率1.28(2004年)の現状では、2人目から自己決定してよいと思う
   ハ 必要ないと思う
   ニ 分からない

4 着床前診断の規制(一定のルール)について
   イ 一般の医療と同様に、インフォームド・コンセントの上、患者が自己決定してよいと思う
   ロ 各病院・医院や各学会の柔軟・可変的ガイドラインによるのがよいと思う
   ハ 日本産科婦人科学会の厳しい会告によるのがよいと思う
   ニ 刑罰のない法令によるのがよいと思う
   ホ 刑罰付きの法令によるのがよいと思う
   ヘ 分からない

5 ご意見、ご感想などありましたら、ご自由にお書きください

2005年 月 日

                           ご協力ありがとうございました

1  染色体異常回避(習慣流産などの不妊治療)のための着床前診断について
    大谷産婦人科 諏訪マタニティークリニック FROM
(妊娠・出産をめぐる自己決定権を支える会)
神奈川県内の大学付属病院
    患者 32名 患者 34名 参加者 33名 看護師 174名
イ  習慣流産(3回以上の流産)には必要と思う 22名 68.75% 4名 11.76% 18名 54.50% 39名 28.67%
妊娠・出産できない不妊患者は、インフォームド・コンセントの上、自己決定してよいと思う 24名 75.00% 8名 23.52% 23名 69.60% 68名 50.00%
特に高齢出産のときには必要だと思う 17名 53.12% 2名 5.88% 11名 33.30% 27名 19.85%
着床前診断は必要ないと思う 0名 0% 1名 2.94% 2名 6.00% 11名 8.08%
分かりません 0名 0% 0名 0% 0名 0% 0名 0%
                   
                   
 遺伝性疾患回避(筋ジストロフィーなどの回避)のための着床前診断について
    大谷産婦人科 諏訪マタニティークリニック FROM
(妊娠・出産をめぐる自己決定権を支える会)
神奈川県内の大学付属病院
    患者 32名 患者 34名 参加者 33名 看護師 174名
イ  極端に重篤な疾患についてのみ必要だと思う 6名 18.75% 3名 8.82% 9名 27.00% 28名 20.58%
手術を要する程の疾患についてはインフォームド・コンセントの上、自己決定してよいと思う 6名 18.76% 2名 5.88% 10名 30.30% 22名 16.41%
疾患の程度にかかわらず、インフォームド・コンセントの上、自己決定してよいと思う 28名 87.50% 23名 67.64% 16名 48.40% 83名 61.94%
必要ないと思う 0名 0% 0名 0% 1名 3.00% 8名 5.97%
分かりません 0名 0% 2名 5.88% 0名 0% 0名 0%
                   
                   
3  男女産み分けのための着床前診断ついて
    大谷産婦人科 諏訪マタニティークリニック FROM
(妊娠・出産をめぐる自己決定権を支える会)
神奈川県内の大学付属病院
    患者 32名 患者 34名 参加者 33名 看護師 174名
イ  子供の同性が続いた場合3人目以上には、自己決定してよいと思う
(同性の続いた場合は中絶のおそれがある)
9名 28.12% 6名 17.64% 9名 27.20% 24名 16.90%
合計特殊出生率1.28(2004年)の現状では、2人目から自己決定してよいと思う 13名 40.62% 7名 20.58% 8名 24.20% 26名 18.30%
必要ないと思う 7名 21.87% 18名 52.94% 12名 36.30% 96名 67.60%
分からない 0名 0% 2名 5.88% 0名 0% 0名 0%
                   
                   
4  着床前診断の規制(一定のルール)について
    大谷産婦人科 諏訪マタニティークリニック FROM
(妊娠・出産をめぐる自己決定権を支える会)
神奈川県内の大学付属病院
    患者 32名 患者 34名 参加者 33名 看護師 174名
イ  一般の医療と同様に、インフォームド・コンセントの上患者が自己決定してよいと思う 29名 90.63% 20名 58.82% 17名 51.50% 80名 66.11%
各病院・医院や各学会の柔軟・可変的ガイドラインによるのがよいと思う 3名 9.37% 5名 14.70% 11名 33.30% 24名 19.83%
日本産科婦人科学会の厳しい会告によるのがよいと思う 0名 0% 0名 0% 1名 3.30% 12名 9.91%
刑罰のない法令によるのがよいと思う 0名 0% 1名 2.94% 2名 6.06% 3名 2.47%
刑罰付きの法令によるのがよいと思う 0名 0% 2名 5.88% 2名 6.06% 8名 6.61%
分からない 0名 0% 4名 11.76% 0名 0% 0名 0%
                   
                   

  まとめ
 (まとめ)
(1)習慣流産については100%近く着床前診断に賛成している。
(2)遺伝性疾患についてもほとんどが着床前診断に賛成となっている。
(3)男女産み分けについても半分程度が賛成となっており、マスコミに言われるほどの反発はない。
(4)規制については、一般の医療と同様に自己決定してよい、または可変的ガイドラインで充分である、と言うのが圧倒的多数である。日産婦会の会告が全く支持されていない状況が分かる。
(5)大谷産婦人科が着床前診断の実施クリニックであるために着床前診断の支持者が最も多い。その他、諏訪マタニティークリニック、FROMも患者が中心であるため、支持者が多い。すなわち、アンケートが不妊患者を中心にすれば、当然にその賛成者が増えることが証明されている(一般の人々を対象とするアンケートは、抵抗勢力の調査を意味するのに、あたかも多数意見のように報告するのは誤った方法論である)。
2 岡田一義教授らのアンケート結果
(1)  岡田一義教授らの「着床前診断についての卒後生命倫理教育の在り方」(日大医学雑誌第64巻第1号、2005年2月1日発行)は、日本大学医学附属板橋病院勤務の全看護師(816名)を対象に、665名の回答を得た。日産婦会支持197名(29.6%)、大谷医師支持37名(5.6%)、判断不可能355名(53.4%)の結果となっている。しかし、この判断不可能とは、分からないとか、理解できないというのではなく、解説によれば、「約50%の看護師はどちらの考えも理解でき、どちらを支持するか判断できないと回答した」となっている。日産婦会の権威に逆らえないという意識の中で思考停止していることを示しており、大谷医師の除名の経過の真実を知るならば、大谷医師支持に回る可能性が強いので、これを着床前診断賛成に加えると、約6割となる。
(2)  重い遺伝性疾患に限り、会告の存在を前提にした場合に、「着床前診断を行い、遺伝病がない場合に産みたい」と回答したのは、362名(54.4%)であり、過半数を超えている。さらに着床前診断がすべての遺伝病に認められたと仮定した場合には、「着床前診断を行い、遺伝病がない場合に産みたい」と回答したのが419名(63.0%)と増加している。着床前診断が強く支持されていると同時に、会告の存在が人々にいかに心理的制約となっているかが明らになっている。
(3)  男女産み分けの着床前診断について、会告の存在を前提にした場合には、「着床前診断を行い、男児の場合に産みたい」と回答したのが89名(13.4%)。これに対して、着床前診断が男女産み分けに認められたと仮定した場合には、「着床前診断を行い、男女の場合に産みたい」と回答したのが144名(21.7%)であった。会告がいかに悪法であっても、これが強い心理的プレッシャーとなっていることが明らかである。しかし、現在会告が存在し、マスコミの男女産み分けに対する非難の中で、144名(21.7%)は驚異的な賛成の数字と言わなければならない。
(4)  岡田一義教授らは考案(まとめ)の中で、残念ながら上記アンケートの成果を生かした分析や総括をされていない。むしろ、アンケート結果に反する次のような意見を出していることは誠に遺憾である。「日産婦会の会告を無視した医療が極く少数の医師によって水面下で行われたり、希望する技術を受けるために渡航する夫婦もいる現状も認識し、学会除名者がある一定期間保険診療ができないなどの罰則も課せるように法律を改正する必要もあると考える」と述べている。これは、日産婦会の非民主的運営を全く知らされないままに、現状を正確に認識できず、ガイドライン、ソフトロー、ハードローなどの法の段階構造についての教育を受ける機会が無いために、せっかくのアンケートを適正に評価できない現状を示している。「重要なことは、まず日本産科婦人科学会がオープンな形で議論したことを、賛否両論と生命倫理学的考察を併記し、会員に情報開示することであり、各会員は自分所属する医療施設で明確な答えがないこの難しい問題についてすべての医療従事者と論議し、Table3の日本産科婦人科学会の『着床前診断に関する見解』に対する反対意見および再考意見を持つ医療従事者に正しい方向性を示す教育を行う義務があると考える」と述べている。「正しい方向」とはアンケートでも強く批判されている会告に従わせるということを意味しているようである。しかし、着床前診断に対する反対意見や再考意見を重視して、さらに議論を広げることが正しい方向ではないのか。結論として、アンケートや反対意見・再考意見は、日産婦会に批判的であり、むしろ日産婦会こそがこのアンケートや意見を重視し、再考すべきであるというべきである。
3  本稿では、本邦で初めてといってよい程、具体的にガイドラインやソフトローの形式と運用をいかにすべきかの問題提起をした。日産婦会は、専門家集団、研究者集団、そしてプロフェッションとしての誇りをかけてこのような現代最大の課題に取り組まなければならないと言える。
以 上


 
(資料)Human Reproduction , in press
「名古屋市立大論文に対する批判」
ph.D サンティアゴ・ムンネ
訳:大谷徹郎
 Sugiura-OgasawaraとSuzumori(2005)の意見記事では相互保因者に転座が確認された後、自然妊娠で生児を得る確率と着床前診断受けた場合の結果とを比較しています。自然妊娠で生児を得ようとした47組という少人数の患者からのデータと、韓国の論文から引用された着床前診断を受けた43組のデータ基づく結論は、二つのグループで生児を得る確率は同程度だが、自然妊娠で生児を得ようとしたグループでは、出産するのに、ほぼ2年を要し、その間に流産を何回も繰り返したというものです。相互転座のために着床前診断を受けた43組の患者が受けた59周期(回数)の治療について、1周期当たり23パーセントの妊娠率、そして患者当りの32パーセント妊娠率を引用し、自然の妊娠で生児を得ることを目指したグループの32パーセント(2年または24回の月経周期を要して得られた数字)に匹敵するとしました。
さらに、彼らは、ロバートソン転座のために着床前診断を受けたグループの妊娠率が16%だったとし、これを自然妊娠で生児を得ようとした11人の生児獲得率(63%)と比較しています。しかし、11人というのは何らかの意味のある結論を引き出すにはどう見ても少なすぎるサンプル数です。

 おまけに、彼らは、自らの施設で経過観察が可能であった患者だけのデータで統計をとっており、実際には流産したけれども、彼らの病院にわざわざ足を運んで、流産の事実を伝えなかった患者は除外しています。
驚いたことに、これらの数字に基づいてSugiura-OgasawaraとSuzumoriは、着床前診断は正当化されないとの結論を下しました。しかしながら、患者の健康福祉を無視した、冷たい数字上のみの論点からみても、彼らのデータは、いかなる結論を引き出すのにもサンプル数が全く不足しています。

 人の気持ちの問題を考えれば、転座の保因者はふつう何回もの流産を経験して、これは女性の人格に破壊的な影響を与えています。たとえば、Sugiura-OgasawaraとSuzumoriは、相互転座の保因者では着床前診断を受けない場合、68パーセント流産の確率があり、ロバートソン転座の保因者でも36%の流産率があるとしています。これらの患者にとって不幸なことにいくつかの国、特に日本の医学会の体制派は、これらの患者の苦しみに貸す耳を持っていません。日本産科婦人科学会は、極めて特殊な症例以外での着床前診断の実施を許可していません。この文章を書いている時点で許可されたのは3例だけです。着床前診断を必要とする患者が日本産科婦人科学会のこういった方針に対して法的手段をとったのは不思議な事ではありません。

 Sugiura-OgasawaraとSuzumoriが見落としている点は、患者が着床前診断を受ける大きな理由は繰り返す流産とそれに伴う精神的、肉体的苦痛から逃れたいという点にあるということです。さらに、もし、彼らの配偶子のほとんどが異常であることが不妊の理由であるとすれば、彼らは体外受精を必要とするので、着床前診断は明白な選択となります。しかも、Polishukらによれば転座の保因者に非常に多い稽留流産を経験した患者では8%もの婦人が不妊症になってしまい、(訳註:流産どころか)妊娠する事さえできなくなってしまいます。

 471周期の転座の着床前診断についての我々の未公表のデータを、下記テーブルに示します。ロバートソン転座の保因者の妊娠率は36%であり、流産率はたったの2パーセントでした。Sugiura-OgasawaraとSuzumoriらは生児獲得に必要だった期間を公表していませんが、経過観察期間は17年間であり、その間に64%の生児獲得率と、36%の流産率を報告していますが、これに比べると、着床前診断は極めて魅力的です。

 相互転座の保因者では、受精卵の染色体異常の割合がより高いためにより妊娠率は下がりますが、しかし、周期当たりの妊娠率は21パーセントで流産率はたったの2%であり、自然妊娠で生児を得ることを目指した場合の、(周期当りのではなく!)、2年以内の32パーセントの生児獲得率と68パーセントの流産の危険と比較すると着床前診断が極めて望ましいと考えられます。
  参考文献

Polishuk WZ, Schenker JG, Yarkoni S.
Menstrual and obstetric sequelae of missed abortion.
Acta Eur Fertil. 1974 Dec;5(4):289-93

Sugiura-Ogasawara M, Ozaki Y, Sato T, Suzumori N, Suzumori K.
Poor prognosis of recurrent aborters with either maternal or paternal reciprocal translocations.
Fertil Steril. 2004 Feb;81(2):367-73.